大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 平成7年(行ウ)4号 判決 1998年1月16日

原告

田村満香

右訴訟代理人弁護士

土田嘉平

被告

五藤一成

外七名

被告ら訴訟代理人弁護士

藤原充子

小泉武嗣

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、連帯して、土佐市に対し、金六五万一〇〇〇円及びこれに対する平成七年七月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、土佐市議会議員七名によって構成される任意団体の視察研修費用の一部について、土佐市長が土佐市波介川河口導流事業補助金の交付を決定したことは違法であるとして、土佐市の住民である原告が、土佐市に代位して、右補助金につき、当時の土佐市長であった被告五藤一成に対し損害賠償を求め、右補助金の支給を受けた右七名の土佐市議会議員(被告五藤一成以外の被告七名)に対し損害賠償又は不当利益返還を求めた住民訴訟(地方自治法二四二条の二第一項四号)である。

二  左記の事実は当事者間に争いのない事実、又は項目末尾記載の証拠によって容易に認定できる事実である。

1  当事者

原告は、土佐市の住民である。

被告五藤一成(以下「被告五藤」という。)は、平成七年六月ないし八月当時、土佐市長の地位にあった。

また、被告江渕土佐生(以下「被告江渕」という。)、被告中内桂郎(以下「被告中内」という。)、被告津野勝彦、被告三本富士夫、被告浜田太蔵、被告吉村正男及び被告山脇義人(以下まとめて「被告議員ら七名」という。)は、平成七年六月ないし八月当時、いずれも土佐市議会議員の地位にあった(以下、単に「市」という場合は土佐市を、「市議会」という場合は土佐市議会をそれぞれ指す。)。

2  波介川河口導流事業

(一) 土佐市中央部を東西に流れる波介川は、従前から治水安全度の極めて低い河川であり、波介川の氾濫による浸水被害は多く、過去三十数年間だけでも昭和三八年八月、昭和四一年八月、昭和四七年七月、昭和五〇年八月、昭和五一年九月、昭和五七年九月に、いずれも台風によって波介川が氾濫し、これによる浸水被害が発生した。特に、昭和五〇年八月の台風五号の際は、波介川の氾濫により、三三五四戸の家屋及び土佐市の平野部の約八七パーセントに当たる一五九〇ヘクタールの田畑が浸水するという大きな被害が発生し、国の激甚災害対策特別緊急事業及び災害復旧助成事業の指定を受けるに至った。

波介川の改修は、戦前から着手されており、戦後も昭和二七年から高知県施工の、昭和四一年には建設省直轄施工の改修工事が行われ、さらに昭和五〇年には、右のとおり激甚災害対策特別緊急事業及び災害復旧助成事業の指定を受けて、仁淀川から波介川への川水逆流を防止する水門の改築や、波介川及びその支流の一部について河床掘削などが行われた。

しかし、それでも波介川の治水安全度は依然として低く、右の改修工事がかなり進捗していた昭和五七年においてさえ、右のとおり台風による浸水被害が発生したため、昭和五八年ごろ、波介川河口導流事業の計画が再浮上した。波介川河口導流事業(以下「本件事業」という。)は、昭和四二年ころ、国、高知県、市によって、正式に計画として立案されたものであるが、昭和五〇年八月、昭和五一年九月、昭和五七年九月のいずれも台風を原因とする波介川氾濫による浸水被害を契機として、昭和五八年ごろ本件事業の計画が再び提示されるに至った。

(二) ところで、波介川流域の浸水被害の原因としては、波介川の勾配が非常に緩く、さらに、上流に行くほど地盤が低いという、波介川流域の低奥型地域特性が同地域の内水排水を困難にしていること、また、波介川が流れ込んでいる仁淀川本川が急流であるため出水時の水位が高く、仁淀川本川の水位により波介川の排水が強く影響を受ける(仁淀川本川の水位が高くなると、波介川の川水が流れ込みにくくなる。)ことが挙げられている。

そこで、波介川の排水が仁淀川本川の水位の影響を受けにくくすることにより、波介川の水位を下げて、これにより波介川の氾濫を防止するという方策が考えられ、そのために、土佐市十文字において仁淀川に流れ込んでいる波介川を改修して、約2.4キロメートル下流の仁淀川河口砂州において仁淀川に流れ込ませる計画が立てられた。これが本件事業の計画であり、本件事業が実施されて、波介川が仁淀川河口に直接流れ込むようになれば、波介川は仁淀川の洪水の影響から切り離されて、水はけが良くなり(流量毎秒九〇〇立方メートル)、昭和五〇年の台風五号の際の洪水に匹敵する程度の洪水があっても、波介川の氾濫による浸水被害はほとんど生じないとされている。

(三) しかし、本件事業は、波介川の流域を約2.4キロメートル延長することになるため、新たな流域として計画されている土佐市新居の農地など約21.3ヘクタール(堤外地を除く。)及び約三〇世帯の家屋の所有者等に対し立ち退きを求めることになるので(以下この地区を「新居地区」という。)、新居地区の住民、特に地権者らを中心に強い反対運動が起こり(ただし、新居地区の中にも反対派と賛成派がある。)、用地買収を始め本件事業は遅々として進行しなかった。反対の理由は、農地の永久消失及び自然環境の変化であり、特に、本件事業により波介川上流部の住民が利益を受けるのに対し、新居地区住民は農地や居住地を失う等の犠牲を強いられ、その利害の調整がつかないことであった。

その後、新居地区住民と市当局との対立は一層激しくなり、平成元年六月以降は、行政担当者の地権者戸別訪問もできなくなって、膠着状態が続いたが、平成六年六月から高知県の斡旋が始まり、平成七年四月に至ってようやく建設省、高知県及び市並びに新居地区住民の地区民会議との間で第一回目の話し合いが開催された。しかし、新居地区住民の本件事業反対の姿勢に変わりはなく、右話し合いの後も市当局は、過去に新居地区内に生じた行政不信の払拭と住民の不和解消のため、慎重かつ特段の配慮をしながら話し合いを進めざるを得ない状況であった。

また、新居地区の住民は、本件事業を実施すれば、仁淀川河口部の波浪に影響があるので、砂州対策を含む安全対策が必要である旨の問題点を指摘している。

(四) ところで、市議会は、昭和五〇年三月、同年九月、昭和五一年一〇月にそれぞれ本件事業を促進する旨の決議案を可決していたが、平成五年九月に四たび、本件事業を促進する旨の決議案を、棄権者一名を除く賛成で可決するに至った。被告中内は、平成五年九月当時、新居地区を地盤とする市議会議員であり、平成五年の右決議に際し出席議員中ただ一人棄権した。(乙七ないし一五、一七ないし二〇、二五、二七、三〇、証人廣瀬、同中越、被告江渕、同中内及び弁論の全趣旨)

3  本件補助金制度

本件事業が右のとおり困難な状況にあったため、市は、本件事業に反対している新居地区住民の理解を得るための取組みの一つとして、土佐市波介川河口導流事業補助金(以下「本件補助金」という。)の制度を設け、本件補助金の交付について必要な事項を定める要綱(以下「本件補助金交付要綱」という。)を作成して、平成六年二月一日からこれを施行した。

本件補助金交付要綱の内容は次のとおりである。補助目的は、本件事業の促進及び新居地区を地域進行について円滑かつ効率的な推進を図るため、自主的、自発的な創意と工夫に基づいた活動を展開する団体等に対して予算の範囲内で補助金を交付することにある。補助対象事業は、(1)本件事業の促進をする事業、(2)新居地区の地域振興を図る事業、(3)その他目的達成に必要な事業である。

本件補助金交付要綱に基づく運用基本は次のとおりである。対象団体は、地区民会議、農協、漁協、その他市長が推進上必要と認める団体である。補助経費は、交通費、宿泊費等関連経費の実費とする。なお、その他懇親会等の経費については日当及び交付先団体の負担とする。

(乙一の一、一の二、二の五、二五、二七、証人廣瀬、同中越、被告江渕、同中内及び弁論の全趣旨)

4  本件実験設備

ところで、高知県や市は、昭和五八年ころから、四国地方建設局を通じて、茨城県つくば市にある建設省の土木研究所(以下「土木研究所」という。)に波介川の水理模型実験など各種の実験や調査を依頼し、同研究所は、その一環として「波介川河口導流事業に伴う大型模型実験設備」(以下「本件実験設備」という。)を作る等して、実験や調査を行った。

本件実験設備における実験テーマは、仁淀川の河口の状況や市側の要望によって各年度により異なっており、例えば、①昭和六一年度は河口が左岸にある左岸導流の計画、②平成元年度は風洞実験、③平成五年は河口が右岸にある右岸導流の計画であって、平成六年一二月にはおおよその技術的な実験検証は終わっていた。また、本件実験設備による実験結果によって、前記2(三)のとおり新居地区の住民から提起されていた、本件事業により仁淀川河口部の波浪に影響が出るため砂州対策を含む安全対策の確保が必要であるという問題点については、技術的に解決可能であるとの結論が出た。

市議会では、①に関して建設常任委員会(昭和五九年三月)、八日会(昭和六〇年四月)、革新クラブ(昭和六一年七月)及び共産党(同年八月)が、②に関して革新クラブ(平成元年七月)及び建設常任委員会等(平成元年七月)が、③に関して建設常任委員会(平成五年七月)及び平成クラブ(平成六年一一月)が、それぞれ土木研究所の本件実験設備を視察していた。

(甲一、乙七ないし一五、二五、二六、三〇、証人廣瀬、同中越、被告江渕、同中内及び弁論の全趣旨)

5  本件視察、本件補助金交付

ところで、市は、土木研究所の本件実験設備が所期の実験目的を達成したので、平成七年七月末をもって取り壊す予定であるという連絡を受けた。そこで、同年五月末ころ、市水対策課治水班宇賀班長(以下「宇賀班長」という。)は、新居地区を地盤とする被告中内に対し、本件実験設備が七月末で取り壊される予定であるので、新居地区住民による視察研修を懇請じた。被告中内が、本件事業に対する反対運動の存在や農繁期であることから、新居地区住民の視察研修参加に対する疑念を述べたところ、宇賀班長は、新居地区住民が無理であれば、学習会を行っている議員による視察研修を懇請した。

ところで、被告中内は、超党派の市議会議員を構成員とする「土佐市の二一世紀を考える会」(会長西村信治市議会議員)の一員であり、同会は、波介川抜本改修など市政の課題への取組みを事業目的とし、市政に関する学習会も開催していた。そこで、被告中内は、同会副会長である被告江渕に対し、宇賀班長の話を伝え、「土佐市の二一世紀を考える会」の被告ら議員七名及び西村と協議した。被告ら議員七名のうち、被告中内及び同江渕を除く五名は、本件実験設備をこれまで視察研修したことはなく、また、同中内は、平成五年九月二八日に可決された本件事業促進決議に棄権していた。同会は、学習会の一環として、本件視察を計画した。その際、同会会長である西村が都合により本件視察に参加できないこと及び申請者として本件補助金の趣旨に沿う名称を使用した方が望ましいと考えたことから、申請団体名を「波介川を考える会」とし、同江渕が代表者となった。

被告ら議員七名は、「波介川を考える会」という団体名を使用して、平成七年六月二九日、本件補助金の交付を申請したところ、被告五藤は、申請団体が本件補助金交付要綱の運用基本に定められた「市長が推進上必要と認める団体」であると判断して、同年七月五日、「波介川を考える会」に対し、本件補助金の交付を決定した。これを受けて、被告ら議員七名は、同月二七日及び二八日の両日、土木研究所、鹿島灘ヘットランド、那珂川等を視察した。被告ら議員七名は、同月二七日夜、茨城県ひたちなか市の春日ホテルにおいて、「波介川を考える会」の懇親会を開いた。補助金の交付先団体の負担となる懇親会等経費は、八万三三八三円であり、その中には、コンパニオン二名分の料金二万四〇〇〇円が加算されている。

本件視察後の同月三一日、被告ら議員七名は、「波介川を考える会」の団体名で、事業実績報告書を市に提出し、同時に、本件視察に要した費用から同団体の自己負担分八万八〇四二円を差し引いた六五万一〇〇〇円を請求し、同年八月一八日、「波介川を考える会」として本件補助金六五万一〇〇〇円の交付を受けた(以下「本件支出」という。)。

(乙一の一、一の二、二の一ないし五、四の一ないし二二、二二、二三、二五、二六、三一、証人廣瀬、被告江渕、同中内及び弁論の全趣旨)

6  市議会議員の研修旅費

市議会では、議員の研修旅費は、議員個人ではなく、議会内の会派単位又は常任委員会単位で支給されることになっている(いずれの単位で支給されるかは年度によって異なる。)。

ところで、平成七年六月ないし八月当時、被告ら議員七名の土佐市議会における所属会派は、被告中内、同三本富士夫、同吉村正男及び同山脇義人がしせいクラブ、被告江渕及び被告浜田太蔵が日本社会党、被告津野勝彦が公明党であった。

また、当時の被告ら議員七名の土佐市議会における所属常任委員会は、被告江渕、同中内、同津野勝彦、同三本富士夫及び同浜田太蔵が総務委員会、同吉村正男が建設委員会、同山脇義人が教育厚生委員会及び議会運営委員会であった。

(乙二の四、証人中越、被告江渕、同中内及び弁論の全趣旨)

7  監査請求

原告は、平成七年九月二八日、本件支出につき、市監査委員に対し、地方自治法二四二条一項に基づいて監査請求を行った。同年一一月二四日、市監査委員は、原告に対し、同条三項の規定により監査を行ったが、同条六項の規定による監査委員の合議が調わなかった旨の通知をなした。

(甲三の一、四)。

第三  争点及び争点に係る当事者の主張

一  争点1(給与等条例主義違反)

本件支出は、給与等条例主義(地方自治法二〇三条五項、二〇四条の二)に違反するか。

1  原告の主張

被告ら議員七名は、本件視察に赴くため、「波介川を考える会」なる任意団体を急きょ作り上げ、右団体名を使用して本件補助金の交付を受けたものであるが、本件視察の実態は、被告ら議員七名それぞれの議員活動にすぎないから、本件補助金の交付を受けたのも被告ら議員七名である。

また、仮に「波介川を考える会」が本件補助金交付を受けたものであるとしても、議員の政策集団である「波介川を考える会」に対する本件補助金交付は、本件補助金制度の設置目的から大きく逸脱するものであるから、同団体は本件補助金交付の対象になり得ず、また、個人は本件補助金の交付対象たり得ないから、被告ら議員七名も本件補助金交付の対象たり得ない。

そうである以上、土佐市が市の公金から被告ら議員七名に対し本件視察の費用を支出するのであれば、議会費や議員ないし議会各派の調査研究費等から支出し(研修調査費の場合)、又は「土佐市議会議員の報酬・期末手当及び費用弁償支給条例」に基づいて市議会議長の承認を得て支出すべき(費用弁償の場合)であったにもかかわらず、本件支出はこれらの手続によらないで行われたものであるから、地方自治法二〇三条五項、二〇四条の二に定める給与等条例主義に違反する。

2  被告らの主張

本件視察は、団体である「波介川を考える会」の本件事業促進のための活動であって、その構成員個々人の議員活動ではなく、本件補助金は手続的にはもとより、実質的にも同団体に交付されたものであって、同団体の構成員個々人(被告ら議員七名)に交付されたものではない。また、同団体は、本件補助金制度の目的から見ても、十分に補助金交付の対象となる団体である。したがって、本件支出に何ら違法はない。

二  争点2(本件支出と公益上の必要性)

本件支出は公益上の必要性を欠き、地方自治法二三二条の二に違反するか。

1  原告の主張

本件補助金が「波介川を考える会」に交付されたものであるとしても、左記のとおり公益上の必要性を欠くので、本件支出は違法である。

(一) 視察調査の重複

市議会においては、波介川改修促進特別委員会が設置され、建設常任委員会が平成七年度に北海道のヘットランドを視察したほか、土木研究所の視察についても建設常任委員会及び議会各派が会派単位に何回となく実施し、その結果、市議会は、既に二回、棄権した被告中内を除く議員全員の賛成で本件事業促進決議を可決している。被告ら議員七名の本件視察は、その内実においても「屋上屋を架す」もので、無意味かつ公金の無駄遣いである。

(二) 懇親会等(コンパニオン問題)

本件視察では、宿泊先のホテルでコンパニオンをはべらせて「慰安」会を行っている。これは、補助金の無駄遣いであって、補助金の使用方法が公益性を欠く。

(三) 補助金交付対象団体としての適格性

本件補助金の交付を受けた「波介川を考える会」は、本件補助金の支出目的から離れる議員集団であって、補助金交付の対象となる団体ではない。それにもかかわらず、本件補助金が支出されたことは、同団体が被告ら議員七名によって構成される議員集団であるにほかならず、平等原則及び比例原則に反する。

また、本件補助金の交付は、市長である被告五藤が議会の自律権能を侵害して、市長の執行権をもって市議会議員とりわけ被告中内の議員活動を支配干渉したものである。

以上の理由から、本件支出は、公益上の必要性を欠き、違法である。

(四) 被告らの責任

被告五藤は、市長として予算執行の権限を有していたが、本件視察が公益上の必要性を欠くものであるにもかかわらず、故意又は重大な過失によって、違法な補助金交付決定をなし、よって、市に対し、本件支出相当額の損害を与えたものであるから、その損害を賠償する責任がある。

被告ら議員七名は、議員として本件補助金の交付が公益上の必要性を欠く違法なものであることを知りながら、本件補助金の交付申請手続を通じて、本件支出相当額の支出をさせたものであり、よって、市に対し、本件支出相当額の損害を賠償し、又は、その不当利得を返還する責任がある。

2  被告らの主張

本件支出には、左記のとおり公益上の必要性がある。

(一) 本件視察の意義

本件事業を推進するためには新居地区住民に本件実験設備を視察してもらうのが最善であるが、現実には新居地区住民の合意が得られず視察してもらえない状況にあり、次善の策として、自主的企画の申請者に視察研修してもらうことが、新居地区住民の本件事業に対する理解を深め、事業推進に役立つものである。特に市議会議員は本件事業に関する市政について効果的に検討することができるのであるから、議員が本件事業に関する視察研修を行うことの利益は、議員個人にとどまらず住民一般にも及ぶといえる。

「土佐市の二一世紀を考える会」の被告ら議員七名は、土木研究所での実験が終了し、平成七年七月末に本件実験設備が解体される予定であったため、本件視察を計画し本件補助金の交付を申請した。

被告ら議員七名は本件視察によって本件事業に対する理解を深めることができたのであるから、本件視察は十分に意義があった。また、本件視察において、平成五年九月の本件事業促進決議にただ一人棄権した新居地区の市議会議員被告中内が本件事業に対する理解を深めるために本件実験設備の視察への参加を決意したこと及び他の議員が党派を超えて参加したことは、従前の経緯を踏まえて極めて重大な意味がある。

(二) 視察調査の重複

被告ら議員七名のうち、被告中内、同江渕を除く五名は、本件視察以前に土木研究所を視察研修したことがなく、被告中内、同江渕は、同研究所を視察研修したことはあるが、本件視察とは実験テーマが異なり、しかも最終実験結果までは視察研修していなかったので、七名とも本件視察の必要があった。すなわち、右研究所の実験テーマは各年度によって異なり、本件視察の年度の実験テーマは、水理模型において一番効果のある中導流堤を設置し、計画流量及び波高による砂州対策について、地元住民が特に心配している波浪時の状況を、理解し易いように水に色付けをして海にはけていく効果についての確認であった。

なお、昭和六三年一一月、平成五年六月及び同八年三月各作成の本件事業河口導流事業完成予定図を比較すると、河口の地形が著しく異なっており、過去に視察研修しているからもう必要性がないとは言えない。

本件視察での実験内容は、昭和五八年から平成七年七月までの間、仁淀川の基本降水量の改訂及び新居海岸部との砂州対策工事の安定工法を含め、様々なケースを想定した上での安全性の検証と工法の検証であり、設計上の基礎資料を更に追求したものであったから、一回見れば万事終わりというものでは決してなく、「屋上屋を架す」との評価は全く不当である。

したがって、本件補助金の交付は公益上の必要性を欠くものではなく、何ら違法な点はない。

(三) 懇親会等(コンパニオン問題)

夕食・懇親会に出席したコンパニオン二名は、旅館側が仲居の手配がつかないとの理由で仲居の代わりとして勝手に雇ったものである。被告ら議員七名はこれを断ったが、旅館としてサービスができないとの理由で仲居の代わりとして出席した。しかも、コンパニオンの経費は、夕食・懇親会費と共に被告ら議員七名の自己負担であった。

したがって、本件補助金支出は無駄遣いではない。

(四) 補助金交付対象団体としての適格性

被告五藤は、本件事業を推進するためには地元住民に本件実験設備を視察してもらうのが最善であるが、現実には地元住民の合意が得られないため視察してもらえず、次善の策として自主的企画の申請者に視察研修してもらうことが地元住民の本件事業に対する理解を深め事業推進に役立つ、特に市議会議員は、本件事業に関する市政について効果的に検討することができるから、議員が本件事業に関する視察を行う利益は、ひとり議員にとどまらず住民一般に及ぶと考えて、申請団体が本件交付要綱及び同要領の運用基本に定められた「市長が推進上必要と定める団体」であると判断して補助金交付を決定したのである。このように、被告五藤は、「波介川河口導流事業の促進及び新居地区の地域振興について円滑かつ効果的な推進を図る」(本件交付要綱第二条)という補助金本来の目的のために本件補助金を交付したのである。被告五藤の判断は、本件事業につき、当時の状況において誠に正当なものであって、平等原則違反や比例原則違反になるものでもなく、何ら市長の裁量権を濫用し、また、その範囲を逸脱するものではない。

また、被告中内は、議員としての信念に基づき、波介川導流事業の是非を検討しているのであって、原告の主張は事実無根である。

したがって、本件補助金交付に公益上の必要性があったことは明らかである。

第四  争点に対する判断

一  争点1について

1  まず、本件補助金交付の支出先について判断する。

(一) 原告は、本件補助金の交付が、実質的には被告ら議員七名個人に対する公金の支出であり、「波介川を考える会」が本件補助金の交付対象たり得ない旨主張する。

しかし、乙一の二、二の一ないし五、三、四の一ないし二二、弁論の全趣旨及び既に摘示した事実によれば、本件補助金交付要綱において、本件補助金の対象団体は、「市長が推進上必要と認める団体」とされ、議員を直接の対象者としていないものの、議員を構成員とする団体を排除しているわけではないこと、本件支出手続においては、補助金交付申請書、立案書、補助金交付決定通知書、請求書、事業実績報告書、支出負担行為決議書、支出命令書など、その申請から支出命令に至るまで、全て「波介川を考える会」を交付対象者として処理されていることが認められる。

ところで、「波介川を考える会」が本件補助金の交付対象たり得るか否かという観点から補助金交付の相手方を判断するに当たっては、補助金の目的や交付対象者の定め方及び当該補助金交付の名宛人という形式的かつ制度的な側面だけにとどまらず、さらに、補助金が交付された団体の性格、目的、構成員、組織、活動状況、議員個人の用途に流用される危険性、支出手続と事後の検査体制、補助金交付の効果が議員個人に止まるものか否かなどの実質的な観点を含めて総合的に考慮し、判断することが必要である。

(二) 甲五及び六、乙六、二五、二六、証人廣瀬、被告江渕、同中内、弁論の全趣旨及び既に適示した事実によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件補助金が交付された「波介川を考える会」は、「土佐市の二一世紀を考える会」(会長西村信治市議会議員)が学習会の一環として、本件視察を計画した際、会長である西村が都合により本件視察に参加できないこと及び申請者として本件補助金の趣旨に沿う名称を使用した方が望ましいと考えられたことから、申請団体名を「波介川を考える会」とし、「土佐市の二一世紀を考える会」の副会長の被告江渕が代表者となったものである。

「土佐市の二一世紀を考える会」は、超党派の市議会議員を構成員として平成七年三月ころ結成され、その規約において、目的、事業、会員、役員等を定め、波介川抜本改修など市政の重要課題への取組みを事業内容とする団体であり、また、市政に関する学習会も開催し、本件視察をその第五回目の学習会に位置付けた。「土佐市の二一世紀を考える会」の構成員は、被告ら議員七名に西村を加えた八名である。

本件視察に参加した被告ら議員七名及び西村を加えた「土佐市の二一世紀を考える会」の構成員は、本件視察後の平成七年八月中旬ころ、議員控室において、反省会を行った。

(2) 本件補助金の交付手続は、本件補助金交付要綱及び運用基本に基づき、団体からの交付申請、市内部の稟議、市長の交付決定、事業実績報告書の提出、団体からの請求、支出負担行為決議及び支出命令というものであり、特に、運用基本において、懇親会等の経費が日当及び交付先団体の負担であることが明記されている。

(3) 被告ら議員七名は、平成七年七月三一日、「波介川を考える会」として事業実績報告書を市に提出し、同時に、本件視察に要した費用から同団体の自己負担分八万八〇四二円を差し引いた六五万一〇〇〇円を請求し、同年八月一八日、「波介川を考える会」として本件補助金六五万一〇〇〇円の交付を受けた。

(4) 被告ら議員七名のうち、被告江渕は、本件視察後、市議会活動とは別個に、自らの後援会のほか新居地区の住民の一部にも直接その視察内容を報告した。被告中内は、本件視察後の平成七年九月ころ、市議会活動とは別個に、本件視察の内容を、新居地区において、自らの後援会を中心に、約一五〇人程度の規模の報告会で報告し、また、同年一〇月ころには、本件事業推進の立場を表明して市長選に立候補した。

(5) 市が被告中内に対して「土佐市の二一世紀を考える会」の本件実験設備視察を懇請した理由は、同会の中には、本件事業に反対する住民を多く抱える新居地区を地盤とする市議会議員被告中内が含まれており、同人は、本件事業について、地元は反対であるが市全体としてはこれを推進せざるを得ないが、前記第二、二、2のとおり、平成元年から数年間も本件事業のための用地買収が進行せず、反対派との対話もできないという膠着状態が続いた後で、ようやく対話は可能になっていたものの、新居地区住民は反対の姿勢を崩さないという状況において、絶対反対という住民に聞く耳を持ってもらうための影響力を有していると判断したからである。

(6) 以上の認定事実によれば、①本件交付先団体とされている「波介川を考える会」は、その設立の経緯、構成員、組織に照らせば、「土佐市の二一世紀を考える会」の分会としての性格を有し、団体としての実質を備えていること、②本件補助金の支出手続及び事後的検査体制によって、議員個人が同補助金を他の用途に使用する危険性はなかったこと、③本件補助金の効果が議員個人にとどまらず、本件補助金の制度を設けるに際して市当局が意図した本件事業の推進に間接的ながら役立っていると考えられることが認められる。したがって、本件補助金の交付が議員の自己研さん的側面を有することは否定できないとしても、本件補助金の趣旨及び目的、交付先団体の性格、支出手続、本件補助金支出の効果などに照らせば、本件支出の相手方は、被告ら議員七名個人ではなく、「波介川を考える会」であり、同団体は本件補助金交付の対象としての適格を有すると考えるのが相当である。

以上のとおり、本件補助金は、団体である「波介川を考える会」に交付されたものであるから、被告ら議員七名個人に対する支出を前提とする原告の主張は理由がない。

2  なお、原告は、本件視察の費用は、それが調査研究費であれば、議会費や議員ないし議会各派の研修旅費等によるべきであり、それが費用弁償であれば、地方自治法二〇三条五項に基づく「土佐市議会議員の報酬・期末手当及び費用弁償支給条例」により市議会議長の承認を得て支出されるべきであるから、その承認を受けていない本件支出は、同条項及び条例に違反すると主張する。

しかし、乙二の四、被告江渕、証人中越、弁論の全趣旨及び既に適示した事実によれば、市の研修旅費は、議員個人ではなく、市議会内の議長に届け出た会派単位(任期一年目及び四年目)ないし常任委員会単位(任期二年目及び三年目)で支給されるものであること、被告ら議員七名が市議会内において所属する会派及び常任委員会は同じではなかったことが認められる。そうすると、被告ら議員七名は、本件視察のため研修旅費の支給を受けることは不可能であったと考えられる。

また、「費用の弁償」は、実費の弁償(地方自治法二〇七条)と同じ意味であって、職務の執行等に要した経費を償うため支給される金銭をいうが、本件視察は、議員が議会閉会中に、委員会とは別に自己の研さん等を積むために行ったものであって、その職務執行として行うものではないから、本件視察の経費は、そもそも同法二〇三条五項の「費用」に当たらない。

したがって、研修旅費及び費用弁償に関する原告の主張は、いずれも理由がない。

3  以上のとおり、本件支出は地方自治法二〇三条五項、二〇四条の二に違反しない。

二  争点2について

1  次に、公益上の必要性の有無について判断する。

地方自治法二三二条の二が規定する公益上の必要性は、地方公共団体の議会や首長が政策を決定するに当たり、憲法九二条に規定された地方自治の本旨及びその内容を具体的に規定した地方自治法等の理念に基づき、その地域内の住民の行政権等に対する様々な政策要求に対し、その優先関係を政治的に決定してその行政目的を達成し、もって、住民の福祉を増進するところにその本質があるから、公益上の必要性の有無の判断は、第一次的には、当該地方公共団体の議会や首長こそが、判断し得るものであって、その裁量に委ねられていると解すべきである。

しかしながら、地方自治法二三二条の二が、地方公共団体が行う補助金等の交付について、公益上の必要性という要件を課した趣旨は、恣意的な補助金の交付によって、当該普通地方公共団体の財政秩序を乱すことを防止する点にあると解されるから、客観的にその公益性が認められないなど、地方公共団体の議会や首長が、補助金を交付することを内容とする予算案を議決し、あるいは、補助金を交付するに際して行った公益上の必要性の存在に関する判断過程に、裁量の逸脱又は濫用があったと認められる場合には、当該補助金の交付は、同条に違反して違法と判断されるものと解するのが相当である。

そして、地方公共団体の議会や首長が補助金交付の際に行った公益上の必要性があるとの判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かは、当該補助金交付の目的、趣旨、交付先団体の目的、構成員、活動状況あるいは活動計画等諸般の事情を考慮し、また、他の諸規範との総合的な評価により判断すべきものである。

2  視察調査の重複

まず、原告は、本件視察が過去の視察調査と重複し、「屋上屋を架す」ものであって、公益上の必要性を欠くと主張するので、この点について判断する。

甲一、乙五の一及び二、二五、二六、三〇、証人廣瀬、被告江渕、同中内、弁論の全趣旨及び既に適示した事実によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 平成七年七月末には本件実験設備は解体される予定であったこと。

(二) 被告ら議員七名のうち、被告中内及び同江渕を除く五名は、本件実験設備をこれまで視察研修したことはないこと、被告中内は、平成元年七月に建設委員会と共に、平成五年七月には建設委員会の一員として、平成五年ころ及び平成六年六月には新居漁業協同組合長として、土木研究所に視察に行ったことがあり、このうち、平成六年六月の視察は、本件補助金の交付を受けたものであること、被告江渕は、昭和六一年七月と平成元年七月に、いずれも革新クラブの一員として、土木研究所に視察に行ったことがあること。

(三) 本件視察に参加した被告中内は、本件事業に反対している住民の多い新居地区を地盤とし、平成五年九月二八日に可決された本件事業促進決議の際に棄権していたこと。

(四) 平成七年七月ころの新居地区の状況としては、土木研究所に視察に参加すること自体、本件事業に賛成の立場であるかのように受け取られる状況であり、また、新居地区住民には農業を営んでいるものが多く、七月ころは農繁期であると考えられ、新居地区住民が本件実験設備等を視察するのは困難な状況にあったこと。

(五) 市が被告中内に対して「土佐市の二一世紀を考える会」の本件実験設備視察を懇請した理由は、同会の中には、本件事業に反対する住民を多く抱える新居地区を地盤とする市議会議員被告中内が含まれており、同人は、本件事業について、地元は反対であるが市全体としてはこれを推進せざるを得ないが、平成元年から数年間も本件事業のための用地買収が進行せず、反対派との対話もできないという膠着状態が続いた後で、ようやく対話は可能になっていたものの、新居地区住民は反対の姿勢を崩さないという状況において、絶対反対という住民に聞く耳を持ってもらうための影響力を有していると判断したからであること。

(六) 本件実験設備における実験テーマは各年度によって異なり、本件視察では、水理模型において一番効果のある中導流堤を設置し、計画水流及び波高による砂州対策について、新居地区住民が特に心配している波浪時の状況を理解しやすいように、水に色付けをして海にはけていく効果について確認したこと。

(七) 平成六年一二月段階で概ね技術的な実験検証は終わっていたが、台風時の高潮や波浪の影響など、新居地区住民から指摘され、過去の視察でも指摘されている様々な問題を最終的に解決できるかどうかを確認する必要があるところ、平成五年六月(乙一四)及び同八年三月(乙一五)各作成のパンフレットの比較により明らかなように、後者では河口の砂州対策として砂州を誘致し固定する導流堤が設置されている点はその一例とみることができること、被告中内は、平成六年六月の視察で右の点のほか、平成六年に実施されていた対岸の埋立工事の影響についても実験するよう土木研究所に要望していたこと。

(八) 本件視察の内容のうち、那珂川の視察は今までに行われたことはないこと、また、鹿島灘ヘットランドについて、被告中内は、以前に視察したことがあったが、本件視察で砂の侵食対策などのヘットランドの効用を明確に認識したこと。

(九) 被告ら議員七名のうち、被告江渕は、本件視察後、市議会活動とは別個に、自らの後援会のほか新居地区の住民の一部にも直接その視察内容を報告したこと、被告中内は、本件視察後の平成七年九月ころ、市議会活動とは別個に、本件視察の内容を、新居地区において、自ら後援会を中心に、約一五〇人程度の規模の報告会で報告したこと、また、同年一〇月ころには、本件事業推進の立場を表明して市長選に立候補したこと。

これらの認定事実によれば、本件事業を巡る新居地区の当時の状況、安全性や工法の検証の必要性、視察場所及び視察内容の相異、本件視察の成果などに照らし、当時の本件視察が過去の視察調査と重複しているとはいえず、本件視察の必要性がなかったということはできない。

したがって、本件視察は調査の重複であって公益上の必要性を欠くという原告の主張は、採用し得ない。

3  懇親会等

次に、原告は、本件視察では、宿泊先のホテルでコンパニオンをはべらせて「慰安」会を行っており、補助金の無駄遣いであり、公益上の必要性を欠くと主張するので、この点について判断する。

(一) 乙一の一、四の一ないし五、四の一九ないし二一、二二、弁論の全趣旨及び既に適示した事実によれば、本件補助金交付要綱の運用基本では、懇親会の費用は交付先団体の自己負担とされていること、被告ら議員七名は、平成七年七月二七日、茨城県ひたちなか市にある春日ホテルにおいて、「波介川を考える会」の懇親会を開き、懇親会等経費は八万三三八三円であったこと、右懇親会においてコンパニオン二名が出席し、その分の料金二万四〇〇〇円が春日ホテルからの請求書に加算されていること、「波介川を考える会」は、本件補助金の交付を請求した同月三一日の時点で、懇親会等経費八万三三八三円を若干上回る金額八万八〇四二円を自己負担していること、同年八月一八日、右懇親会等経費を除いた金額六五万一〇〇〇円が市から「波介川を考える会」に支出されたことが認められる。

(二)  これらの認定事実によれば、「波介川を考える会」が補助金を現実に請求した時点で懇親会等の経費に当たる金額を運用基本どおりに自己負担していることが認められ、その金額の割合や前記2で述べた本件視察の必要性などを考慮すれば、本件視察の懇親会等でコンパニオンが出席していたとしても、直ちに本件視察そのものが公益上の必要性を欠くものとはいえない。

4  補助金交付対象団体としての適格性

(一) 原告は、「波介川を考える会」は、本件補助金の支出目的から外れる集団であって、補助金交付の対象となる団体でないから、本件支出は、地方自治法二三二条の二の公益上の必要性を欠くと主張する。

なるほど、本件補助金が本件事業について新居地区住民の理解を得るための取組みの一環であることからすれば、右住民を中心とする団体等による本件実験設備などの視察が相当である。

しかし、乙一のないし二の五、四の一ないし六、二五、二六、三〇、証人廣瀬、被告江渕、同中内、弁論の全趣旨及び既に適示した事実によれば、本件補助金が本件事業及び新居地区の地域振興その他右目的達成について必要な事業の円滑かつ効率的な推進を図ることを目的とすること、本件補助金交付要綱の運用基本において対象団体を新居地区住民を中心とする団体に限っていないこと、本件支出の相手方である「波介川を考える会」は、被告ら議員七名を構成員とするものであるが、被告ら議員七名はいずれも本件補助金交付を申請する前から本件事業への取組みを目的とした「土佐市の二一世紀を考える会」という団体に所属していたこと、とりわけ本件視察には新居地区を地盤とする被告中内が「波介川を考える会」の一員として参加したことが認められるので、本件補助金の目的、趣旨、補助金交付の有効性、団体の性格などに照らし、「波介川を考える会」に対する本件支出が公益上の必要性を欠くとはいえない。

(二) なお、原告は、本件補助金が支出されたことは、同団体が被告ら議員七名によって構成される議員集団であるにほかならず、平等原則及び比例原則に反すると主張する。

この点、乙一の一、一の二、二の一、二五、二六、二八の一ないし四、三〇、証人廣瀬、被告江渕、同中内、弁論の全趣旨及び既に適示した事実によれば、本件補助金が本件事業及び新居地区の地域振興その他右目的達成について必要な事業の円滑かつ効率的な推進を図ることを目的とすること、本件補助金交付要綱の運用基本において対象団体から議員を構成員とする団体を除外していないこと、本件補助金要綱に基づいて、土佐市農業委員会(一件)及び新居漁業協同組合(二件)も本件補助金の交付を受けていること、平成七年度において、本件視察が、本件補助金交付一件目であり、その申請段階での本件視察のための補助金交付予定額七〇万円を差し引いた配当予算残額は三四四万円であり、本件視察の実際の支出額は六五万一〇〇〇円であることが認められ、これらの事実によれば、本件支出が平等原則ないし比例原則に反するとは認められない。

(三) また、本件補助金の交付は、市長である被告五藤が議会の自律権能を侵害して、市長の執行権をもって市議会議員とりわけ被告中内の議員活動を支配干渉したものであると主張する。

しかし、乙二五、二六、三〇、証人廣瀬、被告江渕、同中内、弁論の全趣旨及び既に適示した事実によれば、被告ら議員七名のうち、被告中内を除く五名は本件視察に参加する前から本件事業に賛成の立場であることのほか、議員が市政の重要課題について理解を深めること自体、公益上のの必要性が認められるので、原告の当該主張は理由がない。

(四) したがって、被告五藤が「波介川を考える会」を運用基本に定められた「市長が推進上必要を定める団体」であると判断して補助金交付を決定したことは、何らその裁量の範囲を逸脱、濫用するものではなく、また、被告ら議員七名が市に対して違法な損害を与えたり、不当な利益を得ているものでもない。原告の主張は採用し得ない。

三  以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官水口雅資 裁判官加藤美枝子 裁判官國井恒志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例